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「振り返る」ことの心理学的効用 NHK「ドキュメント72時間」はなぜおもしろいのか

■ドキュメント72時間が好きすぎる


NHKでときどきやっている「ドキュメント72時間」っていう番組が大好きなんですよ。本当に、異常というぐらい好きで。毎回ある切り口で、その場所にやってくる人々を72時間、取材するという番組なんです。清掃員の方だとか、単身赴任の方だとか、いろんな方の人生が見えてくるんですよ。




たとえばある男性は、子供3人育てたのに、家族との関係が悪くなって、居場所がなくなってある時家を出た。今は一人暮らし。深夜掃除の仕事をして、明け方にスーパーで発泡酒を2本買って寝る前に飲む。そのときが、一番幸せなんですよ、と笑ってる。その顔がとても印象的で。忘れられないんですよね。

僕は、その人の人生をみてもまったく哀れだとは思わなかった。なぜなら、その人は、人生の中ではじめて得た「自由」を満喫してはるように見えたからですね。
彼はそれまでの人生の中で原因が何かは分からないけれど、仕事をしても、家族の中でも、何か人間として認知してもらえなかった。つまり認めてもらえなかったのかもしれない。それでは毎日のように自尊心が傷ついて不安でしょうがないでしょう。そういう人が、これから発泡酒を一杯やって寝る。そこに最高の幸せを感じて笑っている。

僕のような立場の人からすると、この自由っていうものの尊厳を感じたという感じがあったんですね。自由を奪われた人間の苦しみ、惨めさ、つらさといったものから解放されて、「いま、俺は自由なんだ」という喜びを感じさせてくれる映像だった。だから印象に残ったんでしょうね。つまり自由とは人間の場合、放って置かれることでもないんですね。

僕自身が9種体癖だからというのもあるかもしれないけれど、人間の傷つき方のなかでも、「自由を侵害される苦しみ」っていうのは、すごく息苦しいものがあると思うんです。

それにしても、人間のこういう部分を切り取るっていうのは、『ドキュメント72時間』みたいな番組ならではだと思います。

たとえば、YouTubeっていうのは、本当に素晴らしいものだと僕は思います。東浩紀さんや宮台真司さんみたいな方々の独特の思考の展開の話を聞いたり、古代史とか、量子論とかの講義を、それこそあふれるぐらい聞けるわけ。

一方、『ドキュメント72時間』みたいな番組には、そういう「情報」はゼロなんですよ。でも、そこには人間の悲哀とか、喜びみたいなものを垣間見える。これは、テレビが持っている、豊かな可能性だと思うんですよね。

それは、言葉にすれば「振り返る」ということだと思います。YouTubeというのは、「振り返る」場所ではなく、新しい情報があふれる場所だから。少なくとも今のところは。でも、テレビはいま、「振り返る」という独自の役割をメディアとして、担いつつあるんじゃないでしょうかね。

みなさんは、人生の中で「振り返る」という時間はありますかね? 仕事をしたり、友達とカフェで笑い合ったり、一人で動画みて感動したり。僕はいま65歳ですけど、まだ「振り返る」というモードにはなかなかならないですよね。毎日、新しい動画を撮影させてもらったり、講演させてもらったり、ありがたいことにお仕事をいただいていますから、振り返る、ということになかなかならないですよ。

でもね、本当は40代後半ぐらいから、時々振り返ったほうがいいのかも知れませんよ。それは昔を懐かしむ、ということじゃないんです。もう少し距離があって背景がある。72時間という番組は、被写体の人生にできるだけ干渉しない形でただカメラを回して、その中で印象的な場面を編集して見せてくれている。

もちろん、そこに映っている人の人生は、僕らの人生とは違います。でも、「縮尺」は同じなんですよね。そういうものを見ていると、ちょっと「このままでいいんだろうか」という焦りというのは、ちょっと癒やされたりすることがある、というふうにも思います。

■未来を振り返る

僕は、メディアの仕事をやらせていただくようになってからも、おそらく10年間ぐらい、自分のクリニックを続けていました。でも、そのうち7年間ぐらいは、クリニックだけでみると完全に赤字でした。

そりゃあそうですよね。週5日やってたのが4日になり、3日になり、2日になっていっても家賃は変わりませんから。

日本人って、そういう惰性の中で仕事を続けちゃうっていうところがあると思うんですよ。そうすると、『ドキュメント72時間』みたいな番組を観ていても、そこに出ている人が「10年後の自分」とか「10年前の自分」に見えてくるんだと思うんですよね。

そうするとね、「10年後の自分」って、未来なんだけど、どこか懐かしく見えてくるんですよ。だからあの番組は、なんだか泣けてくるんだと思います。もちろん小学生とか出てきてても、どこか、50年前、60年前の自分と重ね合わせてしまう。

「振り返る」ということの意味は、そういうことなんだと思います。みなさんもぜひ、タイミングが会えば『72時間』をお勧めします。10年前のあなたや、10年後のあなたに、出会えるかもしれません。



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